「スターウォーズ」タグアーカイブ

NASA版スターウォーズに隠されたSFの夢

NASA版スターウォーズに隠されたSFの夢

ノーマン・スピンラッド(Norman Spinrad)

アメリカ人SF作家、パリ在住

著書『鉄の夢』(荒俣宏訳、早川書房、1980年)、

『星々からの歌』(宇佐川晶子訳、ハヤカワ文庫、1985年)

訳・ジャヤラット好子

ミシェル・ビュトールが次のような提案をしたことがある。世界中のSF作家たちが集まって、世界の未来図を共同で描く。こうして合意した枠に沿って小説や短篇を書いていき、未来を現実にしようというのだ。業界を知る者はみな、そんな提案がありえない理想だとわかっていた。SF作家は、ただ一つの点で一致しているにすぎない。地球人はいずれ、宇宙空間を渡り、太陽系全体に地球文明を広めることになるという点だ。

とは言っても、SF作家に力がないわけではない。彼らは長いこと、アメリカの宇宙計画の背後で、先見の明ある者として振る舞ってきた。ロシアのスプートニク発射後、1959年に始まったアメリカの宇宙計画は、10年後のアポロ計画とともに、現実としても比喩としても頂点を極めた。世界で初めて、アメリカ人が月面を歩いたのだ。

宇宙旅行、他の惑星への植民、あるいは帝国主義の夢を忍ばせた「宇宙征服」は、初めからSFという分野の美学の核心にあった。アメリカ人を月へといざなった多くの学者と技術者、そして宇宙飛行士自身も、未来小説から影響を受けてきた。

アポロ計画は、SF作家にとって無上の栄光であり、宇宙探検の黄金時代の幕開けとして歓迎された。1969年に人間が月面を歩いたのなら、70年代には確実に、火星遠征や月面植民地、さらにはスタンリー・キューブリックが『2001年宇宙の旅』で見せたような太陽系の果てへの探検が実現するはずだった。

しかし1980年の時点で、こうした未来が実現しないことは明らかとなった。アポロ計画は人類の宇宙探検の始まりではなく、その頂点だったのだ。航空宇宙局(NASA)の予算は削減され、その大部分が充てられたスペースシャトル計画は、人間を地球周回軌道に乗せるだけで満足していた。人類による宇宙探検の黄金時代は終わってしまった。月面着陸は宇宙征服の最初の一歩ではなく、最後の一歩だった。

ジェリー・パーネル博士が何かしようと決意したのは、まさにこの頃だった。彼はSF作家であり、アメリカSF作家協会の元会長であり、宇宙計画へ協力していた。主に共和党の側で選挙運動に参加していたパーネルは、その政治活動を通じて、後にレーガン大統領の国家安全保障担当補佐官となるリチャード・アレンと知り合った。

パーネルは1980年11月、ロバート・A・ハインライン、ポール・アンダースン、一緒に仕事をしていたラリー・ニーヴンといったSF作家たち、また学者や宇宙産業の幹部、ダニエル・グレアム退役将軍、宇宙飛行士エドウィン(バズ)・オルドリンらとともに、国家宇宙政策市民評議会を旗揚げした。

この組織は、有人宇宙飛行という未来構想の実現に向け、共和党新政権に影響を与える目的で、私人が作った圧力団体のようなものだった。とは言っても、それ以上でも以下でもあった。政権準備チームのためにレポートを作成し、パーネルを介して直接リチャード・アレンに提出した。これはアレンが国家安全保障担当補佐官に決まってからも続けられ、1981年1月にレーガン政権が発足すると、政権の最高レベルへの直接の足がかりとなった。

私は当時、アメリカSF作家協会の会長を務めていた。でも、前任者のパーネルから例の評議会へ誘われたことは一度もない。私がレーガン大統領とその仲間を軽蔑していたのは周知の事実だった。とは言っても、パーネルとは友人で、しょっちゅうフランクに話し合う仲だった。政権移行期間、つまり大統領の選出から就任までの期間に、パーネルがNASAの局長に指名されるのではないかという噂が広まった。彼は軽い笑いをまじえて私に言った「いやだよ。もっと権力のあるポストに就く方がいいな」。冗談は半分でしかなかった。

右派と左派を問わず、SF作家の大半と同様に、パーネルは人類の宇宙探検という一大事業に愛着をいだいていた。こうした計画を受け入れさせようと企てる多くの圧力団体は、あまりに素朴な理想主義によって立っていた。ところが、緻密で政治に通じ、国家安全保障会議(NSC)にコネのあるパーネルは、マキャヴェリ的とも言える戦略を展開した。人類を大々的に宇宙へ送り出すのに必要な資金をNASAが手に入れることはない、と彼にはわかっていた。主な資金はペンタゴンから手に入れるべきだった。NASAの30倍の予算をもらい、議会からの予算獲得にずっと大きな力を持っているのだから。どうすれば、ペンタゴンを動かすことができるだろうか? パーネルは答えを見つけた。ソ連の核ミサイルから米国を防衛するためだ!

これは、例の評議会の構成にも表れている。「未来」を夢見るSF作家、ペンタゴンに耳を貸せと言える退役軍人、最大限の予算をもぎとって利益を得たい航空宇宙産業の代表といった顔ぶれである。

タキオン兵器を真に受けるなんて

パーネルの戦略ははっきりしていた。テクノロジーの楯により、飛来する敵のミサイルを破壊し、核攻撃に対して米国を不死身にすることができるという発想を、レーガン政権に受け入れさせるのだ。これは割に容易だった。レーガン政権は軍事費をどんどん増やしていった。航空宇宙産業は大喜びで、影響力を活用して最大限の資金を手に入れた。軍は超高性能のオモチャをたいそう気に入っていた。夢の戦略はとてつもなく魅力的であったのだ。そして、レーガン大統領には映画と現実の区別、つまりジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』と同じ名前の戦略防衛構想(SDI)との区別がなかなか付かなかった。

なにしろ、レーガンが一般教書演説でSDIの存在を明かした際に、そこのくだりをパーネルが書いて、理論物理学の言葉を使った比喩になじみのない大統領の口から、これは「量子ジャンプ」であると語らせたぐらいだ。

例の評議会の隠された戦略は、「スター・ウォーズ」計画を使ってペンタゴンをかつぎ、有人宇宙飛行という遠大な計画に金を出させることにあった。パーネルとSF作家たちは、そうしたシステムには宇宙基地がなくてはならないと信じていた。彼らは軌道レーザーを、軌道を周回して弾道ミサイルを発進中に迎撃する対ミサイル用ミサイルを、軌道中性子爆弾を夢見ていた。これらには、探知・指令・制御をつかさどる軌道システムと、何よりも宇宙にいる人間が必要だった。

こうしたわけで、常に数十人どころか数百人ぐらい滞在するような軌道ステーションを、軍は建設すべきだった。搭乗員を宇宙空間に運び、そこに滞在させるための輸送システムの資金も入り用になってくる。という具合で、ペンタゴンがそれと気付く前に、宇宙探検の黄金時代に必要な設備に投資してくれるはずだった。宇宙ステーション、地球と軌道を結ぶ先端的なシャトル、大型輸送機、宇宙タグボート、宇宙ジープ、軌道燃料庫などなどだ。

SF作家なら誰でも知っていることがある。エネルギーに関し、要するに資金に関し、宇宙旅行の最大の障害は最初の行程にある。資材や備品、燃料や人員を、地球の重力から引きはがして軌道に乗せなければならないのだ。これさえクリアできれば、比較的少ない予算で月や火星、さらに遠い惑星へ到達できるようになる。

しかし、この未来図はサイエンス・フィクションから出てきている。私はパーネルに訊ねた。「ペンタゴンをかついで、民間の有人宇宙計画の設備に軍事予算を出させようなんて思っているのかい?」 政治的に見て、私には幻想でしかなかった。「絶対にありえないよ。あなたも誰も、議会との予算の駆け引きで軍にハッタリをかますなんてできないさ。彼らは百戦錬磨だもの。軽くいなされちゃうよ。シャトルを量産させるとか高機能にするとか言ってペンタゴンに金を出させ、NASAの予算を増やすなんて、絶対に無理だな。軍がNASAの予算を補助するんじゃなくて、シャトル計画を軍事化して、その請求書はNASAの支払いってことになるのがオチだろうよ」

おおよそ、現実はその通りになった。シャトルが動き出した最初の数年間に、それぞれの任務の全部か一部を軍が召し上げてしまった。SDIフィーバーの最盛期、ペンタゴンの議会への影響力をかさにきた航空宇宙産業は国庫をむさぼった。機能しない対ミサイル用ミサイルのため、標的を打ち落とさない対ミサイル用レーザーのため、決して数えられたことなく、たぶん数えきれることもない無茶な「研究」のために、数十億ドルが彼らのふところに落ちた。

いったいどこまで熱狂が進んでいたか、想像するのは難しい。それが絶頂に達していた頃、私はあるパーティーに出席した。カリフォルニアのヴァンデンバーグ、結局は陽の目を見ることがなかった「スペースポート・ウエスト」予定地で航空宇宙業界が主催したものだった。多くの学者と技術者が集まって、SDIについての提案に花を咲かせていた。そこで私は、科学ジョークのつもりで話してみることにした。光より速く運動し、それゆえ時間を下るのでなく遡ることができる理論上の粒子「タキオン」のことを。言うまでもないが(それでも言っておいた方がよいのだが)、そんな粒子は生み出されたことも感知されたこともなく、想像の産物である。私は言った。「どうしてタキオン・ビーム兵器を造らないのですか? 敵のミサイルが発射する瞬間に探知して、その前に発射台の上で叩くことができますよ!」 私が非常に驚いたことに、誰も爆笑してくれなかった。話を聞いた学者のひとりが、「その研究で多分50万ドルとれますね」と夢見る調子で口にした。

それから20年間と400億ドルが費やされたが、相変わらず対ミサイル防衛システムは存在しない。そして役所の怠慢、ペンタゴンの予算獲得力、航空宇宙政策の現実主義のおかげで、SDI計画はいくらかの予算をぶんどり続けている。

地球周回軌道への輸送手段として、アメリカは4機の老朽化したスペースシャトルを持っているだけ。月へ行くことも二度となかった。火星に遠征することもなかった。シャトルの行き先となる有人宇宙ステーションは一つもない。NASAの予算の大部分はステーション建設のために使われ、少なくとも500億ドルがつぎ込まれようとしている。しかし、太陽系の探検を可能にするものではなく、7人以上は収容できない。これは、十分の一の費用で建設されたロシアのステーション「ミール」が、すでに10年前に実現していたことだ。

ソ連崩壊後ほどなく、ジェリー・パーネルとラリー・ニーヴンが米国のテレビ番組で「悪の帝国を打ち砕いた」と語った。やつらが勝てるはずのない宇宙軍拡に引きずり込み、経済力を弱らせてやったのだと言う。そうかもしれない。でも、「スター・ウォーズ」は結局、アメリカの有人宇宙飛行計画もまた弱らせることになったのだ。火星探検や月面基地に回すこともできた400億ドルをSDIが吸い上げ、星間の真空に投げ捨ててしまった。さらに悪いことに、パーネルが実直に追い求めた目的に反して、アメリカの宇宙計画は軍事計画とほとんど一体化してしまった。未来に向けた彼の目的に到達することも、近づくことさえもなかった。宇宙探検の黄金時代は1969年の頃よりも遠のいた。それを気に懸ける人の数も、ひたすら少なくなっているように見える。

(1999年7月号)

All rights reserved, 1999, Le Monde diplomatique + Jayalath Yoshiko + Saito Kagumi