文学
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筒井康隆 |
小学生の時に出会ってから40年以上読み続けている.文学にはこういう感動も あるのかと教えられた.いや,感動と云うより驚きの文学といった方がふさわしい.随所に驚きの仕掛けと毒と実験がちりばめられていて,読者は翻弄されなが らも,筒井ワールドに身を委ねることで言いしれぬ読書の快楽と歓喜に打ち震えることを余儀なくされる.雑誌発表だけで単行本になっていない作品を古本屋で 探し回ったのもこの作家だけだ.一種の中毒状態に陥ってしまった. 読書は楽しい.文学と出会うことの快楽.無限に広がる文学の可能性.言葉で人を殺すことだって出来る.そう,宇宙だって破壊できるかも知れない. |
私が選ぶ筒井康隆の必読作品
挙げてるときりがないぞ.全部読め. |
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安部公房 |
私は比較的文章から入る人だ.硬質な文体が好きである.したがって,基本的に は女性作家の作品は好きになれないが,骨太な作品を書く有吉佐和子などが好きだ.あと今は書いてないようだが,SF畑で「仮面物語」を書いた山尾悠子か な.「パルタイ」の倉橋由美子とか,ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアとか(女性なんだけど誰もが男だと信じて疑わなかった) ...あ安部公房の話だっけ,つまり,この人の文章が好きなわけだ.話に聞くと何でも,言葉の選択に神経を使っていたようで一文章書くのに何日もかかっ たのだそうな.作家としては当たり前のことなんだけど,安部公房は作品世界と文体が見事に一致した作家のひとりである.「砂の女」の砂に閉じこめられた閉 塞感,「第四間氷期」の水棲人の世界,自らを箱に閉じこめる「箱男」,どの作品も見事に現代人の閉塞的状況を描いている.もはや同時代人として彼の作品に 出会えないことが残念でならない. |
私が選ぶ安部公房の必読作品
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大江健三郎 |
私は安部公房が絶対先にノーベル賞をとると思っていた.まあ,誰でもいいのだ が.大江健三郎も中学時代から読み続けた作家のひとりだが,破壊し解体され続ける人間,森,村,社会を描き続けて来たこの作家が描く雨の木(レイン・ツ リー)に人類の救済をイメージしたのは私ばかりではないだろう.政治的にも文化的にも閉塞状況にある現代に,かくも美しいイメージを描き出したことは,ま さに文学の金字塔と云っていいだろう(私的にそう思う). |
私が選ぶ大江健三郎の必読作品
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小松左京 |
SF作家の中でも,海外も含めてこれほど壮大なイメージを突きつける作家はそ うそういない.小松左京は,時間と空間を自由自在に操り,人類,文明,人間,国家,未来,宇宙といった巨大なイメージをあらゆる手法を駆使して私たちの前 に描き出してくれる数少ない作家である.今までこれらのテーマは私たちの暮らしとはかけ離れた絵空事の上で成り立っていたが,私たちの暮らしの僅かな問題 が地球規模の,つまり人類や文明の問題とつながっていることに私たちは気付き始めている.私たちが必要としている文学は,それらのイメージをしっかりと捉 えることの出来る文学なのである.日本という国家を失って流浪の民となった日本人が「世界」の中でどのように生きていくのか,その思考実験のために精緻な 理論の元に日本を海の底に沈めてしまう,そんな作家が必要なのである. |
私が選ぶ小松左京の必読作品
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山本周五郎 |
インド・ネパール・バングラデシュの旅の終わりに,「さぶ」に出会った.イン ドと山本周五郎.一見いかにも似つかわしくない取り合わせだが,全く違和感はなく,出会った人々と自分を重ね合わせながら読み進み,感動で胸がつぶれる思 いだった.帰国後,某放送局のアンケート調査で,このアジアで自分を幸せだと思っていない人の比率の最も高いのが日本だと云うことを知った.私もよく旅先 で知り合う人にその種の質問を尋ねることがあったが,自分は幸せだと答える人が多かった.「さぶ」を取り巻く人たちは,様々な苦しみや悩みを抱えながら, そういう悩み・苦しみを通して次第に成長し,やがて人を信じること,愛すること,許すこと,思いやることを学んでいく.知恵の足りない「さぶ」はそういう ものを生まれながらに持っている純粋無垢の存在である.そんな「さぶ」を足蹴にしたり,自分の方が上等だと考える私たちが幸せになれるはずがないのであ る. 山本周五郎は非常に冷徹な作家である.自分の命を救うために子供すら見殺しにする,それが生命である,ということを私たちに突きつけてくる.口先だけのヒューマニズムではなく,徹底して追い込むところにこの作家の本当の優しさがある. |
私が選ぶ山本周五郎の必読作品
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村上龍 |
村上龍はハードボイルドの作家である.当人は意識していないのかも知れない が,近年の作家はハードボイルドの文体を引き継いでいる.ハードボイルドの元祖と云えば,ヘミングウェイである.曖昧な内省を禁じ,淡々とした状況描写で 物語を追っていく.日本の文学は一時期「物語」を見失っていた.しかし,太古の神話の昔から,文学の本道は「物語」である.ハードボイルドとは文体のこと であってジャンルのことではない. 村上龍は「コインロッカー・ベイピーズ」で「物語」の片鱗を見せたが,最近方向性を誤っているような気がしてならない.「イン・ザ・ミソスープ」のあと がきで,「どれだけ小説を書いても,日本的な共同体の崩壊という現実に追いつかない」などと,いささか辟易しているように見受けられる.そろそろSFでも 書いてはいかがなものだろうか. |
私が選ぶ村上龍の必読作品
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三島由紀夫 |
三島由紀夫の最期は極めて如実に文学的閉塞状況を物語っている.憂国の士とし てではなく,文学者としての美意識こそが成せる業であったと私は感じている.彼の文学者としての美意識こそが,現実とのずれを生み,それ故にあのような結 末に至ったと解釈すべきだろう.我々世俗の人には滑稽ですらある.つまり当時の文学の想像力では太刀打ちできない現実があったとすべきなのだ.今もそうだ が. この人はSF的な視点を持つ作家であり,人の内宇宙を描いて実に見事である.「吃り」でひ弱な主人公の内面の屈折と金閣寺という動かし難い美との対比 を,しっかりと構成された物語の中に重ね合わせる筆力は,他に類を見ない作家である.願わくばその視点が外の宇宙にも向いて欲しかった. |
私が選ぶ三島由紀夫の必読作品
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谷崎潤一郎 |
ここで紹介している他の作家と比較すると,異質の作家である.文学史的には耽 美派の作家ということになる.確かに人間の情念を描いており,しかもその情念はあらぬ方向に向いているようだ.この人も美意識に支配された作家なのだろ う.特に好きな作家というわけではないが,中学時代にはまったことがある.少年期は怪しい世界に憧れるもので,谷崎,三島の他に沼正三の「家畜人ヤプー」 や彼の家畜願望評論集「ある夢想家の手帖」などを読んだりしていた. 「鍵」と同じく窃視をモチーフにした作品と云えば,アンリ・バルビュスの「地獄」や三島由紀夫の「午後の曳航」を思い出す.絵空事だけでなく,精神のバランスを保つためにもこういった作家は必要なのだ.人間ってホントに...うーん,かわいい奴.面白い生き物だなあ. |
私が選ぶ谷崎潤一郎の必読作品
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夏目漱石 |
夏目漱石というと学生時代は読まなきゃイカンというニュアンスで読み始めた. 読んでみるとすこぶる面白い.特に初期の作品は屈託無く読めるし,文体も漢文調で小気味よくリズム感があってよろしい.後期になると作者自身の精神状態ゆ えか,暗くじめじめしており,おいおい死ぬこたねえじゃねえかと登場人物に向かって呟きたくなる.人間のどろどろした泥濘を描くのが上等だとは私は思わな いので,物語の面白さ,文体のリズム感から初期の作品を私は愛している. |
私が選ぶ夏目漱石の必読作品
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星新一 |
星新一は,文学者として正当な評価を受けなかったという点で不遇の作家といえ る.ショートショートという形式で1000編を超える作品があるが,この数の多さゆえなんだと思う.したがって,十把一絡げで論じられることになってしま う.私もここでは初期のショートショート集以外は長編あるいは連作を紹介することになる.誰かちゃんと評価してよ.「落ち話」だけじゃないんだよ.透明感 のある文体とその中に潜む文明批評や人間という七面倒くさい生き物に対するアイロニー.情感を読むだけが文学じゃないぞ. |
私が選ぶ星新一の必読作品
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アーネスト・ヘミングウェイ |
ヘミングウェイはハードボイルドの元祖である.透徹した文章で淡々とした情景 描写が「物語」を形作っていく.私たちは彼の作り出す世界のイメージを,頭の中で次々と描き出していくうちに物語の中にぐいぐい引き込まれていく.美しい カリブの島々,サバンナをわたる風,バッファローを追う狩人,小舟で海と対峙する老人,内戦のさなかの恋,なんてロマン溢れる小説世界なのだ.不謹慎かも 知れないけど,男の子ならヘミングウェイのようにライフル片手に世界を巡ってみたいと思うだろう.彼の小説世界を体験するということは,パパにぽんと肩を 叩かれて「男というものは,な・・・」と,いろんなことを教わって大きくなるのと似ている.男とはね,胸を張って生きていくものなのだ. |
私が選ぶアーネスト・ヘミングウェイの必読作品
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カート・ヴォネガット |
皮肉とユーモアたっぷりの冗談的世界は当初SFの世界でしか受け入れられていな かった.いまだに日本ではSF・ミステリー出版でお馴染みの早川書房が版権を独占している.第二次大戦中ドレスデンの空爆を捕虜として体験した作者が,時 間や空間を飛び越えながら過去と未来を体験する(宇宙人まであらわれる)といったような,自由奔放な表現手法が一般の読者には受け入れられなかった.不可 解な新興宗教,世界最終兵器,謎のSF作家,宇宙人,どっちつかずの作者自身,モザイクのような断章をつなぎ合わせるストーリー,どれをとっても一般の小 説に慣れ親しんできた人には受け入れがたいものだろう.今でこそ多種多様な小説で巷は溢れかえっており,多くの読者を獲得している.作風とは異なって恐ろ しく繊細な作家なのだろう.作品の中にも皮肉とユーモアの裏にそんな陰翳が見え隠れしている. |
私が選ぶカート・ヴォネガットの必読作品
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コリン・ウィルソン |
「賢者の石」「スペース・バンパイア(トビー・フーパーが映画化)」などの小 説も書いているが小説家と云うより,評論家である.評論集「アウトサイダー」で一躍脚光を浴びる.私は「殺人百科」を中学時代に読んで,「なんて凄いこと を研究している奴がいるんだ!」と一気にはまってしまった.殺人,オカルト,超常現象,歴史の謎,と彼の扱うテーマは日常の「アウトサイド」に関するもの ばかりだった.そんな彼が行き着いたのはA・H・マスローの自己実現の心理学である.つまり,健康で人生に達成感を得ることが出来た人の心理分析である. だが,重要なのはアウトサイドに向かうリビドーと自己実現に向かうリビドーは,根底は同じものでつながっている紙一重ということだ.彼はこの人間のリビ ドーがアウトサイドに向かう過程を綿密に分析してみせる.その成果が小説世界にも反映されているが,こちらはあまり成功していないようである.彼の扱う題 材は非常に扇情的だが,読み物としても非常に面白い. |
私が選ぶコリン・ウィルソンの必読作品
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フィリップ・K・ディック |
どう評して良いのか未だによく判らない.歴然たるSF作家なのだが,映画で言うとクローネンヴァーグに 近いだろうか?小説の中で使われる小道具などはどうでもいい.肝心なのは人間の変容である.いわゆるサイエンスのあるフィクションではない.ある日ひょん なことから非現実の世界に入り込んだり,リアルなのにあり得ない未来の物語であったり,ハードボイルドでありながら,抽象的な思索があったりと,捕らえど ころが判らない.晩年の作品はドラッグネタも多くてますます思索的になって,この人は普段何を考えているんだと心配になってしまう.でも面白いんだ,これ が. |
私が選ぶフィリップ・K・ディックの必読作品
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ロバート・A・ハインライン |
とにかく面白い! これにつきる.60年代のカルト小説となった「異星の客」,賛否両論の物議を醸した「宇宙の戦士」などもあるが,うだうだ考えるより読んでてとにかく楽しい. ところでバーホーベン,オランダ時代から知ってるけど,やりすぎで面白さ半減だぞ. |
私が選ぶロバート・A・ハインラインの必読作品
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レイ・ブラッドベリ |
ブラッドベリとの最初の出会いは,実はトリュフォーの「華氏451」という映 画だった.読書を禁止された近未来の物語で,読書を愛する人々が密かに隠し持っている書物をファイアーマン(!)が見つけだして燃やす,という読書好きに は何とも堪らない切ない悲しい物語である.紙の燃え出す温度が表題の華氏451度である.この他に「火星年代記」「霧笛」「刺青の男」など映像化された作 品はいろいろあるが,ブラッドベリの文章に及ぶものはない.抒情あふれる瑞々しい文体は,流れる詩のようだ.英文でも韻を踏んでおり,声を出して読むと心 地よいくらいだ.大仕掛けなハードウェアは登場しないが,物語はセンスオブワンダーに溢れていて,まぎれもなくSFである.おセンチなファンタジーに堕し ていないのは,滅び行くものと新たに生まれ来るものに対する冷徹な眼差しがあるからだ. |
私が選ぶレイ・ブラッドベリの必読作品
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江戸川乱歩 |
大切な人を忘れていた.私の好きな異形・奇形の世界を描いて他に右に出るものなし. レイ・ブラッドベリの項を書いていて,「ブラッドベリはミステリも書いてるけど,ミステリっていうジャンルはつまんない作品が多いよな,イマジネーション の飛躍がないんだよなあ,『虚無への供物』は面白かったけど,あれは中井英夫だったな,横溝とかもなぁ映像化された金田一が一杯いて困るよなぁ,孫までい たんだ,あとあれ,『ブリキの太鼓』みたいな探偵,そうそうコナン,少年探偵団みたいなやつ,少年探偵団といえば,怪人二十面相と明智君」などと漠然と思 想していたら,「あ,いたいた,この人を忘れるなんて」と乱歩を思い出した.おいおい,自分の書棚に講談社版の江戸川乱歩全集(全25巻)が鎮座している ではないか.何でこの人を忘れていたのだろう. もしかすると,乱歩の小説は私の読書体験の中で,原体験といってもいいくらいの位置づけにあるかもしれない.子供の頃春陽文庫版をこそこそと隠れ読んだ 思い出があるが,別にこそこそ隠れる必要もないのになぜかこそこそ読むのがしっくりくるのが乱歩だ.いまだに読書するというと,昼間ではなく深夜にこそこ そ読む癖があるのも,この人のおかげかもしれない. ちなみに筒井康隆は乱歩に「お助け」という作品が認められることで世に出ることになったという(いずれは世に出てたのだろうけど).乱歩の言葉「うつし世はゆめ よるの夢こそまこと」は私の座右の銘でもある. |
私が選ぶ江戸川乱歩の必読作品
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平井和正 |
平井和正はそれほど好きな作家ではないが,一時期,といってもかなり若い頃に 「狼男シリーズ」に熱狂した.漫画の原作をたくさん手がけていてプロとしての活動はSF作家の中でも結構古く,60年代から活動している.執筆の時は言霊 がのりうつったようになって書きとばしたと本人も語っているが,狼男シリーズの文章は一行目から最後まで一気に読まずにいられない気迫というか,怨念とい うか,読者にまで何かが憑依したようになってしまう力があった.月夜の晩に最大のパワーを発揮し,巨大な悪に立ち向かう狼男犬神明の活躍は,まさにはらは らどきどきの連続である.後期からやや神懸かり的になり,「幻魔大戦」小説版へと移行していくが,この頃はそのパワーも空回りした感がある.それまでは犬 神明自身の中にも善と悪が混在していたが,後期は善の代表として悪と戦うという二元論に陥ってしまっている.「幻魔大戦」はなんといっても石森章太郎の漫 画版が最高に面白い. |
私が選ぶ平井和正の必読作品
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梁石日 |
私が選ぶ梁石日の必読作品
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